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2014年9月 8日 (月)

東大野球部コーチとして

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現在、東大大学院で投球、打撃フォームの分析を研究しながら、東大野球部の
臨時コーチとして、指導されている桑田真澄さんのインタビュー記事が朝日新聞
に掲載されました。

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2014年9月6日 朝日新聞

 オピニオン インタビュー
 東大野球部を教える
              ( 野球解説者 桑田真澄さん )


部員を支配した気合と根性の練習 「選択と集中」型に


弱小チームが個性的な名指導者により活気を取り戻し、勝利に向け一丸
となる。ドラマではよくある筋書きだが、現実に起こりうるのか。桑田真澄
さんが東京大野球部の特別コーチとなって1年半余。東京六大学野球で
連敗記録更新中の東大を泥沼からどう引き上げるのか。秋季リーグ戦
開幕を前に桑田さんに聞いた。


◆◆「76連敗」という現実をどう受け止めますか。

「東大野球部は1981年春のリーグ戦では4位になり、『赤門旋風』
を巻き起こしたこともある。成績だけを見れば『最近の東大は何をやって
いるんだ!』と言われても仕方がない。だけど、東大には他大学のような
スポーツ推薦枠や、甲子園に出場するような系列高校はありません。他
大学に入部してくる選手と東大の選手との力量差は、以前よりもさらに
広がっている。そういう現実も見る必要があります」

◆◆東大の選手たちに、どんなアドバイスをしているのですか。

「昨年1月から、月数回のペースで教えています。最初に伝えたのは
『常識を疑う』ということです。戦後の野球界は『ひたすら時間をかけ、
死にものぐるいで多くの練習をこなせば強くなれる』という考え方に支
配されてきました。その背景にあるのは『気合と根性が勝敗を決する』
という精神論です。東大もその例に漏れず、すごい量の練習をしていま
した。『他大学が5時間練習していたら、僕たちはその倍やらないと
勝てない』というのが部員たちの言い分です。でも、それで実際に強く
なれたのか」

◆◆実力差を少しでも縮めるには、やはり練習しかないのでは?

「最初の1カ月間、東大野球部の練習をじっと見ていました。例えば
ランニングでも、50メートルダッシュを20本とか持久走とか、数
多くのメニューをこなしている。だけど、どれ一つとして全力でやって
いるようには見えなかった。量が多すぎて体力が続かないからです。
だったら50メートルダッシュを8本だけ、集中してやった方がずっと
効果的です」

「僕がPL学園にいた頃も、最初は長時間練習でした。だけど、1年生
の夏に全国優勝した後、僕が提案して1日3時間の練習にしたんです。
監督には『野球をなめているのか!』と怒られましたが、『僕らの目標
は投げ込みや走り込みではなく、甲子園で優勝することのはずです』と
説得しました。当時のライバル校は僕らよりもずっと多く練習していた
と思いますが、『打倒PL!』で気合を入れ過ぎ、肝心の試合の時には
くたくた。一方、僕らはいつも万全の体調で試合に臨めた。そうして
春夏計5回、すべての甲子園に出場できました」

「東大の部員たちにもしょっちゅう、『練習はさっさと終えて、余った
時間で勉強したり恋愛したりしろよ』と言っています。恋愛すれば、
『この言葉で彼女の表情が変わった。怒っているのかな』などと、相手
の気持ちを理解しようと努めるでしょう。それが、試合で対戦相手の
心理を読む練習にもなるんです」


     ■  ■


◆◆だけど、練習量を減らすだけでは強くなれないでしょう。

「もちろんです。次に教えたのが自分の現状を正確に把握すること。
そして『選択と集中』です」

「僕はピッチング中心に教えていますが、東大の投手は研究熱心で、
変化球も4種類も5種類も練習しています。だけどストレートの球速は
せいぜい120キロ程度ですから、変化球は100キロぐらい。いくら
変化しても、打者は怖くない。ならば、コントロールで勝負するしか
ない。それが『学ぶべき技術の選択』です。打者が最も嫌うアウトロー
(外角低め)に自在に決められれば、球速がなくてもそうは打たれない。
体格に恵まれない僕が、プロで173勝できたことが何よりの証拠です」

「現状把握のために投手たちにブルペンで投げさせたら、アウトローを
狙っても、10球のうち2球決まればいい方でした。実戦で決まるのは
その半分でしょう。試合ではとても通用しません」

◆◆選手としての元々の力量が高くない以上、コントロールがよくない
  のも仕方がないのでは?

「それは違う。練習量が不足していたからです」

◆◆さっき「練習量を増やすのは逆効果」と言われたばかりですが。

「大事なのは無駄な練習を省く一方で、必要な練習に体力と気力を集中
させることです。実際にブルペンで何球投げているか、投手たちに記録
させたら、月に300球前後でした。1日あたりわずか10球で、上達
するわけがありません」

「選手たちは『ブルペンだけじゃなくて遠投などもしている』と主張
しましたが、投手と野手の決定的な違いは、マウンドという傾斜のある
場所から投げることです。平地で投げる余力があるならば、傾斜のある
ブルペンで一球でも多く、バランスを取りながら投げる練習をしないと
制球力はつかない。月に600球はブルペンで投げるよう指示しました。
投げる時にも、なぜアウトローに球が行かないのか。どういう体の使い
方をすればいいのか。常に考え、感じ取るよう指導しています」

「投球術についても、野球界には『両肩は地面と平行にする』『ボール
を持つ手をできるだけ早く高く上げてトップをつくる』など、さまざま
な『間違った常識』がある。僕は中学の頃からそれを疑い、試行錯誤を
重ねてきました。マウンドでは誰も助けてくれない。自分の体を自分で
微調整し、思った所に投げられる技術を身につけることで初めて自信が
持てるし、実際に相手を抑えられる。気合と根性だけでは無理なんです。
長時間練習や非合理的な投球方法という『野球界の常識』をうのみに
していたら、プロで活躍する前につぶれていたと思います」


     ■  ■


◆◆精神論に陥らず、自分の力量を冷静に把握し、合理的な練習に集中
  して取り組む。言われてみれば当然のことですし、受験勉強にも
  通じます。東大生でもそれができていなかった、ということが驚き
  です。

「それだけ、『練習量と練習時間と気合と根性』という野球界のゆがん
だ伝統が根深いのだと思います。僕の修士論文でも取り上げましたが、
日本の野球指導に強い影響を与えているのは、1919年に早稲田大
野球部の初代監督に就任し『千本ノック』『一球入魂』などの言葉で
有名な飛田穂洲(すいしゅう)の『野球道』です」

「飛田が練習量を重視したのは事実ですが、『千本ノックといっても
選手の体格健康その他に細心の注意を払わなくてはならぬから、100本
にまで減少しなければならぬ場合もある』と書き残しています。また、
米国遠征の経験を生かし、最先端の合理的な指導をしていた。上級生が
下級生に雑用をさせることも嫌い、『自分のことは自分でやりなさい』
というのが口癖でした」

「確かに飛田も太平洋戦争直前には、監督や先輩への絶対服従を強調
したり、野球は兵隊養成に有用との主張をしたりしています。だけど
それは、野球を『敵性競技』と見なす軍部に対抗するための苦肉の策
でした。ところが戦後は、飛田が監督として実践した『合理的な野球
道』ではなく、軍部から野球を守るための方便だった『誤解された
野球道』の方が広がってしまった」


     ■  ■


◆◆なぜでしょうか。

「大きな理由は、多くの軍隊経験者が復員後、全国で野球の指導者や
審判になったことです。軍隊式の指導法が野球に取り込まれ、上下関係
や精神論、体罰肯定が根付いてしまった。かつての常識だった『練習中
に水を飲むな!』という指導も、軍隊式の表れです。敵地で兵隊が水筒
の水をガブガブ飲むとすぐになくなってしまうし、南方の猛暑の中では
水も腐ってしまう。そこで『水を飲んだらバテる』『根性がない』と
いうことになり、それが戦後の野球指導にも持ち込まれた。僕も練習中
には、便所や水たまりの水をこっそりすくって飲んでいました」

「少子化や、サッカーなど他のスポーツの台頭で、野球をやる子ども
たちは減っている。スポーツ医科学に基づく合理的な教え方をする指導
者を増やし、子どもたちを大事に育てないと、日本の野球界はダメに
なってしまいます」

◆◆そのためには、桑田さんが教えている東大が、現実に強くなること
  こそ効果的ではないでしょうか。

「確かに東大はまだ結果を出せていない。『桑田も大したことないなあ』
と言われることさえある。でも、僕が見る限り選手たちの意識改革は
できつつあるし、力量もどんどん上がっています」

「僕は今年から桜美林大野球部でも教えていますが、首都大学野球の
2部リーグから1部リーグに昇格したばかりなのに、春のリーグ戦は
いきなり2位でした。僕の指導だけで強くなったわけではないが、選手
の元々の力量が高ければ意識改革の効果も表れやすいと思います」

「東大は連敗のせいで『どうせまた負ける』というマイナス思考に陥り
やすい。でも、野球という競技では力量差を覆すチャンスが必ず訪れ
ます。まずはリーグ戦で一つか二つ勝つこと。それは十分可能です」

 (聞き手・太田啓之)

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この記事を読んで、桑田さんは、ある人と全く共通した意見をお持ちなのだな
と感じました。そのある方とは、同じ巨人軍でユニフォームを着ていた松井秀喜
さんです。
松井さんも、2013年8月のトークイベントの中で、「限られた時間の中で、どんな
練習をするかで、差が出てくる。」とおっしゃっています。
桑田さんの「選択と集中型の練習」と全く同じです。


「誰にでも与えられた時間は同じ、その限られた時間を最大限に活かすべきだ」
という考えは、野球の練習にとどまるものではありません。
この考えを忘れずに、日ごろから考えて行動出来ればいいのですが・・・
凡人の私にはなかなか出来ません。。。

東大野球部が連敗を脱出できるか、この先注目です。

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