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2013年8月29日 (木)

松井秀喜 その野球人生6

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2013年8月4日 朝日新聞


  師弟


「やはり長嶋監督と素振りをした時間ですかね」

昨年12月の引退会見。20年間で最も印象深いシーンを問われ、ひと呼吸置いた。
次々と浮かんでは消える記憶の中から、厳しくも温かく、大きな愛で包まれていた
場面を挙げた。「ミスター・プロ野球」といわれる元巨人監督・長嶋茂雄氏との二人
三脚。

「父親ではないんだよ。父親はもっと近い存在。あれだけ、多くの時間を過ごさせて
もらったのに、2人で練習をするときは、常に緊張感があった。長嶋茂雄がその場
にいるだけで、独特の空気というものが生じる。監督と選手という立場で接してい
たときは、とくにそうだったね」

短い時は15分、長くて1時間。特訓は繰り返された。バットが空を切る音で上、下
半身のバランスや、インパクトの力の入れ具合をチェック。

「長嶋茂雄が見ているのに、手は抜けない。素振りなんてウォーミングアップと考
える選手いると思うけれど、違う。どれだけ、実践に近いスイングをするか。全身
全霊でバットを振るのは難しい。あごの下から汗はしたたるし、床にもたまる。そう
いうスイングを音で判断する。最初はそれで状態がいい、悪いなんて分からな
かった」

いつの日からか、その音を聞き分けられるようになった。

「監督は現役時代に部屋の電気を消して、真っ暗にしてスイングをしたと言ってい
た。だから、音だけで良い、悪いがわかる。二人きりの練習を重ねて、少しずつ自
分の耳でも判断できるようになっていった」

「監督は時間を忘れる。ガンガン振って『おい、松井! 水を飲んで、少し休め』。
『ありがとうございます』って、水を飲み終わった瞬間に『はい、始めるぞ』。全然
休んでいないというパターンも多かった」

都内の長嶋邸での特訓も多かった。長嶋氏の妻亜希子さん(故人)が台所に立
ち、長嶋氏は隣でフルーツを食べながら、世間話で盛り上がる。そんな家族の
ようなひとときも過ごした。

「お昼に手料理をごちそうになった。おいしく頂きました。素振りのあと、監督に
『松井、今日は良かったぞ! よし、食え』と。その、出してもらった量がすごい。
残すわけにはいかないから、必死で食べた。ゲームのある東京ドームに行って、
試合直前になっても苦しくて、危なかった」

2001年9月、お互いに巨人のユニホームを着て最後の素振りをした日。涙を流し
ながらバットを振り続けたエピソードは有名だ。長嶋氏自身が「あの感情をあまり
表に出さない、松井がですよ」と切り出して、広く知れ渡った。

「何年も続けてきたことが、今日で終わりだなと思ったら、自然とね。監督付の
マネージャーもその場にいたので、分かるほど、泣いていたわけではないと思う
けれど。2人で毎日素振りをしてきたということを、チーム関係者は知っていた
かもしれないけど、現役時代は誰にも言わなかった」

今年5月、国民栄誉賞授賞式のため日本に滞在した6日間のうち、3日は長嶋氏
と食事をした。

「中華やステーキを食べさせて頂いた。改めて思ったけれども、長嶋茂雄は格好
いいね」

そんなミスターが育てた強打者が覚醒したのは、1999年のことだった。

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