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2010年7月26日 (月)

桑田真澄から球児たちへ

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ちょっと前になりますが、朝日新聞に桑田真澄さんの記事が掲載されて
いました。
内容は、桑田さんが多くの野球少年に向けて書いたものですが、それ
にとどまらず、とても広い分野に共通して言えることが多数ありました
ので、記事の全文を転載します。

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2010年7月20日 朝日新聞

 オピニオン
 球児たちへ 野球を好きになる7つの道
              ( 野球評論家 桑田真澄 )

現役を引退したぼくは、昨年春、早稲田大大学院スポーツ科学研究科に
入学しました。大学院では「これからの時代にふさわしい野球道」に
ついて1年間考え抜き、論文を書きました。たくさんの人たちの協力を
いただいて完成した「『野球道』の再定義による日本野球界のさらなる
発展策に関する研究」は、幸いにも社会人1年コースの最優秀論文賞を
受賞しました。この論文を下敷きに、無限の可能性を秘めたみなさんが
楽しくプレーするためのポイントを七つにまとめ、提案しようと思います。

 1.練習時間を減らそう
 2.ダッシュは全力10本

みなさんは、毎日どれくらい練習していますか。
ぼくは論文を書くために、プロ野球選手270人にアンケートをしました。
高校時代の練習時間の平均は平日で4時間半、休日で7時間20分。15時間
以上練習していた人もいました。
みなさんは、このデータを見て、どう考えたでしょうか。
「プロになるためには、やっぱり長時間の練習が必要なんだなぁ」と
思いましたか?
ぼくはPL学園高校1年夏の甲子園で優勝した後、監督に「全体練習は3
時間にしましょう」と提案しました。決して怠けたかったからではあり
ません。どんなに野球が好きでも、自分の体力と集中力には限界がある
と考えたからです。
その後、PL学園は黄金期を迎えます。ぼくたちは春夏合わせて優勝2回、
準優勝2回。2年下の立浪和義選手(元中日)の世代も3時間ほどの全体
練習で春夏連覇を果たしています。
短時間で効果的な全体練習をして、その後は各自の課題や体調に応じて
個人練習をした方が技術はアップすると思います。

技術を向上させるためには、どんなスポーツでも反復練習が必要でしょ
う。でも、最高速度でダッシュを100本、素振りを千回もできますか。
きっと、誰にもできません。では、指導者から無理やり命じられたら?
正直にお話すると、ぼくはカウントする数字を抜きました。3の次は5、
5の次は7、10・・・。
「ランニングに行ってきます」と言って指導者から離れて。その頃はま
だ普及していなかったアイシングをしたこともあります。後輩たちと寝
転がって、大きな空を見上げていたこともあります。
もちろん、手を抜いたりサボったりするのはいいことではありません。
でも、決して大きくない自分の身体を守るためには必要なことでした。
なぜなら、ぼくの周りのまじめで才能のある選手ほど、指導者から指示
されるままに頑張りすぎて、ケガをして、表舞台から消えていったから。
それに、練習量を増やし過ぎると、動作は徐々にゆっくりになってしま
います。その動きを脳が覚え、身体に染み付いてしまう。ダッシュは全
力10本でいい。きみが投手なら、ダッシュ1本が1回の投球だと思って9
回走ってみよう。10本目は延長の分。
どうですか、集中力がぐんと上がったでしょう。

 3.どんどんミスしよう
 4.勝利ばかり追わない

野球はミスをするスポーツです。イチロー選手だって打席に立った半分
以上はアウトになる。どうしても起きてしまう自分のミスをチームメイ
トに救ってもらったり、逆にチームメイトのミスを自分がカバーしたり
する。こうした助け合いの気持ちがチームプレーだし、野球というスポ
ーツの魅力です。ミスをなくそうとムダな努力をするよりも、ミスから
学ぶことのできる選手の方が、成長が早い。
それなのに、ミスをした選手を怒鳴りつけたり、罰練習をさせたりする
のは野球というスポーツがわかっていない証拠です。ミスをすると、ど
うして失敗したのか考えるチャンスになります。次にミスを減らすため
の練習に熱が入ります。
ここでは絶対に三振したくないと思うと、体はこわばり、ボールを迎え
に行ってフォームが崩れてしまいます。そういう時は「タイミングだけ
合わせて空振りしてやろう」と考えましょう。投手が振りかぶってきま
した、さあ、ゆっくり体重移動、思い切って空振り! あれ、ヒットに
なってしまいました。

野球をしていると、ぼくはいつもわくわくします。けれど、小学生時代
は毎日、グラウンドに行くのが憂鬱でした。指導者に殴られるからです。
顔がぱんぱんに腫れ上がり、殴るところがなくなると、今度はケツバット
が猛スピードで飛んできました。
体罰は指導者だけでなく、先輩から受けることもあります。特に、目の
前の試合に勝つことを至上の目的にすると、指導者は手段を選ばなくな
ります。とりわけ小学校時代は、礼儀と体づくりの基礎を身につけるこ
とが大事です。そんなときに選手権大会は必要ないと、ぼくは考えます。
プロ野球選手へのアンケートでは、指導者から体罰を受けた経験がある
人が中学生で46%、高校47%、先輩からの体罰が中学36%、高校51%に
のぼりました。
こんなに多いのは指導者が体罰を受けながら練習してきたからです。
体罰は連鎖します。体罰を受けた選手は、体罰を与える指導者になる。
理不尽な体罰を繰り返す指導者や先輩がいるチームだったら、他のチー
ムに移ることも考えて下さい。我慢することよりも、自分の身体と精神
を守ることの方が大切です。

 5.勉強や遊びを大切に
 6.米国を手本にしない

明治時代のはじめごろ、野球は放課後を楽しく過ごすための遊びでした。
そこから、長時間練習が当たり前になったのは、戦前に早稲田大学の監
督をしていた飛田穂洲(とびたすいしゅう)さんが提唱した「野球道」
の影響が大きいと言われています。「千本ノック」に象徴される猛練習、
武士道にも通じる精神主義、指導者や先輩への絶対服従・・・。
残念ながら、いま「野球道」は選手を罵倒することを恥じず、体罰をた
めらわない指導者の精神的な支柱にさえなっています。
しかし、飛田先生が「野球道」を提唱したのには別の理由がありました。
当時は軍国主義に向かう時代です。軍部や政府から「敵性競技」として、
にらまれがちだった野球をなんとか守りたいという思いも強かった。
その証拠に監督としての飛田さんは決して一方的な指導をしていたわけ
ではありません。合理的な最新の戦術を取り入れ、選手には自己管理を
求め、勉強してきちんと学校を卒業することを奨励するなど、バランス
のとれた指導者だったのです。
みなさんのような成長期の人には心身のバランスが大切です。練習時間
を短縮して空いた時間には、勉強や遊びにあててください。「苦手な勉
強で苦労するより、得意な野球の練習に集中した方がいい」と思う人が
いるかもしれません。でも人間は得意なことだけで生き抜くことはでき
ません。プロ野球の世界で長年活躍できるのは、対戦相手を分析したり、
自分自身をコントロールしたりできる賢い選手です。現役生活を引退し
てから生きるのは、遊びや新しい出会いを通じて身につけた「感謝する
心」「ひとを思いやる気持ち」です。こうした能力を養うためにも、生
活のすべてを大切にしてもらいたいと思います。

みなさんの中には、野球発祥の地、米国のベースボールこそが理想だと
思っている人も少なくないでしょう。しかし、現在のメジャーリーグは
ドミニカ共和国やベネズエラ、プエルトリコなど米国以外の外国から来
た選手たちに支えられているのです。
いま、残念なことに、リーグ全体に拝金主義がはびこり、稼ぐためなら
手段を選ばなくなっているのを、ぼくはメジャーに行って実感しました。
上手な選手も薬物に手を出していたことがわかりました。大事な野球道
具も粗末に扱い、中にはグラブを座布団にしてグラウンドでチームメイ
トと話しこんでいる選手もいました。それに、バッテリーの配球だって
、戦術だって、日本野球の方が進んでいると思います。
米国の開拓文化から生まれたベースボールは元来、賭博などと結びつき
やすい側面があるそうです。飛田さんらは「ベースボール」の品格に欠
ける部分を嫌って、人格を磨くことができる日本流の「野球」を生みだ
そうとした。さきほどは、「野球道」の問題点を指摘しましたが、こう
した日本野球の魅力の部分は、みなさんにも積極的に受け継いで欲しい
と思います。

 7.その大声、無駄では?

みなさんが大きな声を出すのは、練習中にノックの順番を待っている時
と、試合で相手をヤジる時ではないでしょうか。
ノックの順番待ちが長いのは、練習にムダが多いということを意味しま
す。工夫すれば、チーム全員がインターバルトレーニングなみのテンポ
で守備練習ができるはずです。
また、ヤジは日本に野球が伝来してから、100年たってもなくならない
欠点の一つです。明治時代の一高と米国人チームとの対戦でもヤジの
ひどさを批判して「もう一高と試合をするのはやめるべきだ」と英字紙
が論じたそうです。そんなものを続けるよりも、対戦相手や仲間にリス
ペクトの気持ちを表現したほうが、スポーツマンらしくてかっこいいと
思いませんか。
ぼくは「新しい野球道」の根幹にスポーツマンシップを置きたい。野球
を通じて人間性を磨き、技術だけでなく精神的にも自分自身を成長させ
ていく。そういった考え方を持ちながら、みなさんには野球を長く続け
て欲しいと思っています。トレーニング理論も発展していて、うまくな
る可能性には終わりがなくなっていますから。
そのためには何より、野球が楽しくないと。
ではみなさん、プレーボール!
(聞き手 鈴木繁)

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桑田真澄さんは、誕生日が私と3ヶ月違いの同世代なので、PL学園1年
の時から甲子園での活躍をテレビで見ていました。
現役時代の活躍はもちろん、引退された後も野球界の発展のために精力
的に活動されており、素晴らしいです。
今後、桑田さんの活動が実を結び、野球界がスポーツマンシップにあふ
れた、誰もが楽しめるスポーツとして発展していくことを、野球ファン
の1人として願っています。

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